オンガクカンキョウソウゾウカ?

『小さな面白さ』をたくさん見つけたい
  
プロジェクト4 学部3年 A. I. さん

舞台芸術を専門とするプロジェクト4に所属しながら「私はステージに出る人ではない」と語る池上綾乃さん
その言葉の真意を確かめるべく現代アートとの関わりを中心に彼女の素顔に迫る

芸大だけに芸術

――早速だけど、今年はどんな授業を取っていますか。

えーと、読み上げていいのかな。芸術運営論(著作権)、芸術運営論(文化政策)、映像基礎演習、芸術批評演習、身体芸術論とか……。

――なんか「芸術」が付くのが多いね。

ははは、芸大だから。

――確かに(笑)。その中で、何かオススメの授業ってありますか。

長島確先生の「演劇制作演習」はオススメかな。プロ4の人はみんなとってるよ。今年は「リア王」をテーマに、毎週いろんなバージョンのリア王を見たりしてる。オーソンウェルズのとか、ロシアが制作したのとか、あとリア王っぽいってことで小津安二郎の「東京物語」とか。とにかく毎週上演会で、いろんなものを見比べてる感じ。これからテキストの分解みたいなことをするみたいです。あとは岩井成昭先生の映像基礎演習かな。ちょうどこの間は、セルフポートレートの課題がありました。

――映像のセルフポートレートですか……?

そう、あえて自分を映すという試みで。普通、映像制作って撮影者である自分がカメラに写されることはないよね。でも他人を撮る前にまずは自分を撮って、写される立場がどのようなものなのかを感じようという目的みたい。あ、でも実は、同じ岩井先生の授業だとワークショップ演習の方がおすすめかな。私は去年取ったんだけどね。

――今年は集中講義もたくさん取ってるみたいですね。

そうですね。社会学、宗教学、色彩学とか……。一般科目の単位を今年で終わらせたくって。あと空間演出演習は取手キャンパスの授業なんだけど、思い切って取ってみました。でも手帳に書き込んでみたら大変なことになったよ。ほぼ夏休みがないもん。いや、本当にやばいなあ(汗)。

しゃべる相手のいない同士で

――池上さんは、上野の他学科の人との繋がりが結構あるイメージだけど、どういう風にして上野の人と仲良くなったんでしょうか。

私が1年生の時に受けてたドイツ語の授業は、周りがほとんど声楽科だったんだけど、そうじゃなかったのが私と、あと韓国からのある留学生の人だったんです。で、お互いしゃべる人いないから、そこで仲良くなれて。ラッキーなことにその人が物凄く社交的な人で、食事会に誘ってもらったりして、そこから色んな学科の人と友達になれたんです。ある中国からの研究生の人には、北京の自宅に泊まらせてもらったりもしました。あとは副科合唱とか、芸祭委員やってた時とかも友達増えたかな。

――うらやましい限りです。

意外と音楽学部より美術学部の知り合いが多いかも。音環の公演の時には、衣装を作ってもらったりもしましたね。

ダンスから哲学、そして謎の作品づくり

――ではそろそろ、プロジェクトなどで池上さんが主として取り組んでいることを教えていただきたいと思います。

プロジェクトの時間では、とりあえず演劇と哲学ですね。去年まではダンスを練習していた時間で、今年は哲学を学んでいます。

――哲学ですか。

哲学、って言っていいのかちょっと分からないけど。市村作知雄先生の下で読書会などを行っています。舞台芸術に何らかの形で関わっていく以上、これまでダンスを実際に体験して学べることは沢山あったんだけど、やっぱり私はステージに出る人ではないと思うので。

――なるほど。では、ステージに出る以外でどういうことに取り組んでいるんでしょうか。

正直、今は自分としても立ち位置が決められてない感じなんですが……。これは授業とか関係なく自主的になんだけど、今はある作品を作ってます。「場所とかモノを面白く見るにはどうすればいいんだろう」というテーマで、今回はここ千住キャンパスをどういうふうに五感で感じられるか、という試み。旧千寿小学校に通ってた人に取材したりして、音声ツアーみたいなのをやってみようと計画しています。

――それは……、なんて呼べばいいんだろう。パフォーマンス?

うーん、どうだろう。演劇でもダンスでも、舞台ってわけでもないし……。一応「鑑賞ツアー」と呼んで間違いはないかな。

――でも、確かに最近分類できないようなものは多いですよね。

そうそう。たとえば「Port B(ポルト・ビー)」とかね。一応彼らは演劇として活動してるみたいだけど、その実際としてはツアーだったりするんだよね。映像を流すためのキャラバンカーで各地をまわったりしていて。あと韓国では、そういう風に分類しにくい現代的なもので、特に政治的、社会的な関心を持つ感じのものを「ダウォン(多元)芸術」と呼んだりもしていますね。演劇でもダンスでもない、なにか。

――じゃあ何かで分類に迷ったらそれでいいじゃないですか、とりあえず(笑)。

いや、そうとも言えないかも。韓国でダウォン芸術って呼ばれているものには芸術と呼ぶにはかなりきわどいものもあるし。うーん、本当に難しいよね。

――しかし、このあたりの話ってプロジェクト2の領域に近い感じがしますね。

そうですね。実際、これまでプロ2の企画にも関わったりもしてきたし。結構プロ2寄りな興味が強いのかも。そういえばプロ2のMさんなんかは、逆にプロ4寄りのプロ2って感じがするよね。

――そういえば僕もちょっとプロ3寄りなプロ1な気がします。

そうなんだ(笑)。まあ、みんな色々だよね。

少しは音楽も

――プロジェクト4は直接音楽に関わることが少ないかもしれないですが、池上さんの音楽的な教養に関してはどのような感じなのでしょう。

音楽、というと一応声楽をずっとやってて、今でもたまにホールで歌ったりします。でもあくまで趣味かな。ただやっぱり一応少しは音楽も、って思ったんですよね。だから、副科ピアノも音楽基礎演習も2年間は受けました。

――受験に際しては音楽的な勉強はどうしていたんですか。

楽典とかソルフェージュのあたりは全く経験がなかったので、高3の10月から音楽教室に通ってました。

――結構ぎりぎりな感じですね。

そうなんです。他に併願してる大学もあったので、もうこれは教室行かないとやばいんじゃないかと思って。実はその音楽教室には今も週1で通ってます。

面接の後悔

――では今度は、受験の自己表現のことについて聞かせてもらってもいいでしょうか。

「Amazing Grace」の楽曲を使ったパフォーマンス(?)でした。曲ができた背景とかを調べて、それについて自分の言葉でまとめたものを朗読的な感じで話して。その後、黒人と白人の写真を素材に作った映像を背景に曲を歌った、という感じ。

――おお、結構いろいろな要素がありますね。本番はうまくいきましたか。

結構緊張したかなあ。確かアカペラだったと思うんだけど、2番で転調する時に、自分がどの音程を歌ってるのか分からない状態になってすごく焦った。「ああ、もういいや」って感じでなんとか歌ったけど、たぶん確実に音程間違ってたと思う。

――でも、今ここにいるということはそれは致命的なミスではなかったわけで。

まあそうですね。先生たちも多分、パフォーマンス自体よりその後の受け答えの方を重視してるんじゃないのかな。

――受け答えでは何か困ったりしましたか?

「尊敬するアーティストはいますか」って聞かれた時に、なぜだか「沢山いるんですけども、ええっと……」ってなっちゃって答えられなかった。家に帰りながら、とりあえず坂本龍一とか言っとけばよかったなあ、と。

――沢山いすぎて選べないってことはちゃんと伝わったんじゃないかな。

確かにそうなのかな。あと、私は終始笑顔だったのがよかったかもしれない(笑)。先生たちと会話するっていう雰囲気になれてたとは思います。

「小さな面白さ」

――大学に入学した後で、何か考え方が変わったことなどはありますか。

現代アートに対する感覚ですね。入学するまでは、現代アートのようなものについて全く関わりはなかったし、そういうものを受け入れることもできなかったと思う。大学に入って授業でそういうものを見せられた時にも、最初はわけがわからなかった。でも何故か周りの先輩や先生はそれ面白いものなんだ! っていうもんだから、そこに順応しようとしたのかな。いつの間にか本当にこれは面白いんだって思えるようになった。その経緯についてはちょっと不純な気もするけどね。あと最近思うのは、こっちの世界はあくまで少数派なんだってことを忘れちゃだめだなって。客観的な視点で物事を見るように心がけたいと思っています。

――やりたいことに関しても現代アート的な方向に変わっていったんでしょうか。

私のやりたいことというと、「日常では拾い上げられにくいもの、隠れているものをアートを通じて表に出していきたい」ってとこかな。それは入学前から変わっていないことだと思うけど、現代アートにふれるうちに素朴な面白さというのが見えてきたと思います。日常に隠れているこんなことだって面白くとらえることができるんだ、って。「小さな面白さ」をたくさん見つけるようになったんだと思う。ああ、そうだ。高校生の頃は大きいことがやりたかったんです。表に出て、わかりやすく評価が出るようなもの。でも今では、小規模でも密度の濃いものなら良いんじゃないかなって。

専門性を高めるために

――学部卒業後の進路についてはどう考えていますか。

私は学部を卒業したら大学院に行こうと思ってます。やっぱり自分にとって専門性を高めるためには、あと1、2年じゃ足りないだろうな、と思うので。あと留学ではないけど、海外には是非行きたいと思う。劇場文化とかも日本とは全然変わってくるし、海外で現代のものとかを生で見ておきたいなって。

――さらにその後、就活とかは……?

実は明確なビジョンがない。やばい。一般企業への就活というのも視野にはあります。

市村先生には、「おまえは一般企業もありだよ。ちょっとはまともだから」って言われたし(笑)。企画・制作とかができるようなところだといいのかも。今は色んなところに手を出しているということもあるけど、やっぱり最終的な目的地についてもちゃんと考えていかなきゃな、と思います。 (了 2012年7月)

 

履修科目

 

[目次]

当サイトの著作権は各記事のインタビューイ・作成者にありますが、TwitterやFacebookで情報を共有していただけるとうれしいです。
Twitter ID: @onkantecho_2013

音環手帖